フリッチ(FRITSCH)
 スイスの多くのピッケルがアルプスの麓の村で誕生したのに対してフリッチはチューリッヒのスポーツ店の製品である。実際にはアンデンマッテン等の地方のピッケル鍛冶が作ってフリッチに納入していたものと推察できる。
 古くから日本に輸入され、戦後は穴明きタイプも輸入された。


フリッチ(1)
 1920年代に製作された物であろう。ヘッド長29.7p、全長93p、重量は980g。ピック下辺はほぼ直線で、なおかつシャフトに対して直角にできている。
 同時期に作られたアンデンマッテンと並べて見ると極めて良く似ていることが分かる。このことからフリッチで販売していたピッケルはアンデンマッテンから供給を受けていた物であったと考えられる。











(↑;フリッチ、↓;アンデンマッテン)



フリッチ(2)
 1930年代から40年代の作でヘッド長30.0p、全長94p、重量1050gの物。ピック下側には2と打たれているがこれはヘッド長を表すコードだと思われる。










 このピッケルも同時代のアンデンマッテンと比較すると似ている点が多いことが分かる。下にアンデンマッテンのヘッド長33p物と一緒に写した写真を示すが、ブレードからシャフトにかけての下辺の曲線及び面取りの仕方がほとんど同じように見える。またピック下辺からシャフトにかけての線も同様に酷似している。この他にもフィンガ長、連結ピンの位置、シャフトの材質等に共通点が見られる。
(↑;アンデンマッテン、↓;フリッチ) (↑;アンデンマッテン、↓;フリッチ)



フリッチ(3)
 このフリッチはヘッド長27.5p、全長84pで全体に小振りのピッケルである。1950年代から60年代に製造されたものと思われる。フリッチのマークの左側には、MADE IN SWITZERLANDの刻印が押されている。またピックの背面にはDOMの刻印がある。DOMはミシャベル連峰の最高峰であることからもこのピッケルもアンデンマッテンが作ってフリッチに納入していた物であろうことが推察できる。











同時代のアンデンマッテンとの比較
(↑;アンデンマッテン、↓;フリッチ)



フリッチ(4)
 このフリッチはフリッチ(3)よりもピック、ブレード共にカーブがきつく、こちらの方が新しい年代の物だと思われる。ヘッド長29.0p、全長79pでヘッド表面はウィリッシュ風の光沢仕上げになっている。ブレード下面は中央に向かって肉厚が増えている珍しい構造になっている。銘はフリッチ(1)と同様にピックが右を向く面に打たれている。どんな決まりで銘を左右に打ち分けたのかは不明である。











フリッチ(5)
 このフリッチはヘッド長31.0pの大振りのピッケルである。ブレードの長さが短く、また極端なカップ型なので戦後の製品だと思われる。ピックの形状がビョルンスタットやスチュバイのアッシェンブレンナーに似ているが、そのどちらでもない。FRITSCHの銘を打刻するのに失敗したらしく二度打ちされて一部分が二重になっている。またピック裏側にはMADE IN SWITZERLANDの刻印が打たれている。






フリッチ(6)
 このフリッチは1970年代の物でヘッド長29.0p。日本では穴明きモデルをスペシャル、穴なしモデルをスタンダードと呼んで販売していた。



フリッチ(7) [東京都立川市、庄子寿一氏所蔵]
 日本で1970年代に販売されていた物でヘッド長28.0p。上のフリッチ(6)とは異なる鍛冶屋で作られた物と思われる。形がウィリッシュに極めて似ているのでフリッチがウィリッシュから供給を受けていた物のように見えるが細かい点で違いがあってどうやらそうでもないようだ。
 銘は表側にSWITZERLAND MADE、裏側にSPORT FRITSCH HIMALAYAと打たれている。フリッチ・スポーツのヒマラヤ・モデルといった意味だろうか。
左;フリッチ(7)、右;フリッチ(6) 奥;ウィリッシュ(2代目戦後型)、手前;フリッチ(7)