フルプメス(FULPMES)
 フルプメスはオーストリアの他メーカーと同様にオーストリア西部チロル地方のスチュバイ・タールの町、フルプメスに工場があった。銘のWerkは英語のWorkと同じなのでWerk Fulpmesではフルプメス工業または製作所と訳せるがフルプメス社と呼ぶのが一般的であるらしい。現在も存在するかは不明。


 
WERK FULPMES [千葉県八日市場市、中台格之氏所蔵]
 極めて古い形状のピッケルである。1910〜20年代の物ではないだろうか。ヘッド長27.7p、全長106p、重量は1300gもある。全体に肉厚にできていてブレード下部も削ぎ落とされていない。シャフトも太く、断面は円形に近い。フィンガは銅製のピンで止められている。石突きはワンピース型でハーネス部分のテーパがきつい。銘はブレード上面に打たれている。










WERKGEN FULPMES
 これも古い形状のピッケルである。1920〜30年代の物ではないだろうか。ヘッド長27.8p、全長109p、重量はシャフトが上記の物に比べて楕円に近い分軽くなっていて1100gである。
 銘はGARANTIRT WERKGEN FULPMESと打たれている。GARANTIRTは保証の意味である。WERKGENのGENはGenossenschaft(組合、団体等の意)の略ではないかと考えられる。これからWERK FULPMESもWERKGEN FULPMESも同じ企業体であったと推察できる。












アッシェンブレンナー No.1 (Aschenbrenner No.1) [神奈川県川崎市、宮坂吉雄氏所蔵]
 このピッケルはアッシェンブレンナーの原型モデルではないかと思われる。フィンガのピンが銅製であることから1930〜40年代に作られた物であると思われる。そのことからアッシェンブレンナーは第2次世界大戦前から作られていたことが分かる。ヘッド形状はスイス物のような優雅な曲線を描き、後のアッシェンブレンナーに見られるようなピック先端の削り落としはここにはない。ヘッド長31.2p、全長80.5p。
 銘はフランス語でEXTRA GARANTIEと打たれて、その右にWERKGEN FULPMESと打たれている。ピックが右を向く面には1 MODELL ASCHENBRENNERと打たれている。1はヘッド長を表していると考えるとヘッド長の短い2というモデルもあったと思われる。ヘッド長を1や2の数字で表すのはフランスのシモンやシャルレが戦前から行っていた方法であるのでこのピッケルはフランスへ輸出する目的で表示をそれに合わせたとも考えられる。














アッシェンブレンナー(コンケーブ・ブレード)(Aschenbrenner, long type, concave blade)
 戦前・戦後を通じて活躍したオーストリアの有名な登山家ペーター・アッシェンブレンナー(Peter Aschenbrenner)の名を冠したモデル。スチュバイ社のアッシェンブレンナーの原形がこれだと思われる。1950年代に何らかの理由でフルプメス社が版権をスチュバイ社に譲渡したのではないかと考えられる。ヘッド長30.5p、ブレードはコンケーブ型。
 1953(昭和28)年7月、ドイツ・オーストリア合同のナンガパルバット遠征隊のヘルマン・ブール(Hermann Buhl, 1924-1957)が登頂の証拠に山頂に残してきたピッケルがこれと同じ物であったらしい。この隊の登攀隊長がペーター・アッシェンブレンナーだった。





ナンガパルバット登頂後の29才のヘルマン・ブール。40時間の死闘によって一気に老人のような顔になってしまった。(「8000メートルの上と下」ヘルマン・ブール著より)


  ナンガパルバット山頂に残してきたピッケル(同左)



1999年に日本の登山隊が山頂付近で発見したピッケル



  そのピッケルの銘


アッシェンブレンナー(フラット・ブレード) (Aschenbrenner, long model, flat blade)
 このアッシェンブレンナーはブレードがフラットなモデル。ヘッド長は30.5pの長尺タイプ。
 銘の文字はコンケーブ型が大文字・小文字なのに対してこれは大文字だけである。またORIGINAL ASCHENBRENNERと刻まれていて元祖であることを示している。スチュバイのアッシェンブレンナーにもORIGINALの文字が入っているのでこの2社以外でアッシェンブレンナーを真似たピッケルが作られていたのかも知れない。輸出を意識してかMADE IN AUSTRIAと大きく刻まれている。