モーゼル(JOH. MOOSER)

 ツェルマット近郊の村タッシュにはウィリッシュ以外にもモーゼルという名のピッケル鍛冶が存在した。名前はヨハン・モーゼル(Johann Mooser、生没年不明)。彼のピッケルには銘の中段にNachfolger von Josef Willischと打ってある。これはヨーゼフ・ウィリッシュの後継者という意味である。これは何を意味するのだろうか。初代ウィリッシュであるヨーゼフ・ウィリッシュが2代目のマックスとローマンの兄弟にピッケル鍛冶を引き継ぐ間に少しの空白があり、その間をヨーゼフの弟子であったヨハン・モーゼルが埋めたのであろうか。それともウィリッシュから独立したモーゼルが独自の鍛冶屋を立ち上げたのであろうか。興味は尽きない。
 なお日本の古い文献にはモーゼルのことは一切出てこない。これは彼がまったくの受注生産で作っていて彼に製作を依頼した日本人がいなかったためではないだろうか。あるいは彼がピッケルを作っていた時期が第2次世界大戦の前後頃であったため日本に輸入されなかったためであろうか。


Joh. Mooser(1)
 ヘッド長27.0cm、全長83.5cm、重量700gの小振りで軽量なピッケル。ヘッドは頭抜きでピック先端で急に細くなるビョルンスタットに似た形状である。ブレードはイチョウ形で下刃、フィンガーとハーネスに打たれているピンは銅製である。















Joh. Mooser(2) [東京都在住N氏所蔵]
 これはヘッド長29.5cmの物である。全長は88cm、重量は830gである。これも頭抜き構造になっていて銅製のピンが使われている。また理由は分からないが銘の打ってある面が(1)の27cmの物とは逆の面である。














       ↑;27cm  ↓;29.5cm