トップ(TOP、東京、1949〜1990?)

 1949(昭和24)年、竹内芳春は株式会社共和運動具製作所を設立した。同社は主として金属製運動用具の製造・販売を行っていた。そして1963(昭和38)年に株式会社東京トップと改称した。経営的には、@陸上競技・学校体育用具、A登山・キャンプ用品、Bスキー関連アクセサリ及びチューンアップ用品、を柱に製品を供給していた。
 しかし経営危機に陥ってしまい、1978(昭和53)年に経営者が変わった。その時に称号を株式会社ニュートップに変えた。その後1990年頃ニュートップは廃業となってしまった。
 


東京トップの広告(雑誌「岳人」1972年6月号から)
 この記述によるとトップのピッケルは武田という鍛冶職人が鍛えていたことが分かる。



東京トップの広告(雑誌「山と渓谷」1971年5月号から)
 トップが当時販売していたピッケルが掲載されている。さらにトップが輸入していたインターアルプ社(製造はカンプ社)のピッケルも紹介されている。1ドル360円の頃なので輸入品と国産品との価格差が大きいことが分かる。



アイスベンダー(Ice-Bender) [静岡県沼津市、渡辺末雄氏所蔵]
 大きく湾曲したブレードと先端に膨らみを持たせたピックに特徴のあるトップの代表的ピッケル。ヘッド長28.0pで材質はニッケルクロム鋼。1970年代に製造された物と考えられる。銘にはモデル名のIce-Benderの他にTOP SNOWMANと打たれていてスノーマンの姉妹品であることを表している。
 モデル名についてであるが、Bendには曲げるとか屈服させるという意味があるのでIce-Benderには「氷を屈服させる者」という意味があると思われる。これは深い湾曲を持ったブレード形状から名付けたのではないだろうか。
 フィンガー上部には製造番号かロット番号かは不明だが4桁の数字が打刻されている。またシャフト下部にはWHITE ASH DENMARKと刻印されていてシャフトがデンマーク産のホワイト・アッシュ材であることを示している。












トップ・スノーマン(前期モデル) (Top Snowman) [千葉県八日市場市、中台格之氏所蔵]
 このピッケルは極めて古典的な形状から1950年代から1960年代に作られた物であろうと思われる。ヘッド長は32.5pのいわゆる尺一寸物である。全長は83.5p、重量は900g、ブレードはフラットではなく浅く湾曲している。銘のN.C. STEELはニッケル・クロム鋼のことを表している。
 山と渓谷社が発行していた雑誌「ハイカー」1960(昭和35年)7月号の巻末に登山用具通信販売のカタログが綴じ込まれている。そこにこのピッケルがトップ印スノーマン尺一型として掲載されている。















↑門田ベルクハイル33p  ↓トップ・スノーマン33p


トップ・スノーマン(後期モデル) (Top Snowman) [鹿児島県屋久町、榊原浩平氏所蔵]
 トップ・スノーマンは明らかにシャルレのスーパーコンタを手本としたピッケルである。写真のスノーマンは後期のモデルであり、1970年代後半に作られた物と思われる。このスノーマンは上掲のカタログにある物に比べてピックのカーブが深くなり、ピック先端下部の刻みが追加されている。
 ピックのカーブが深くなった分ヘッド全体の長さは27.5pと小振りになり、一般的な雪山用から氷雪壁用に用途が変化してきたことが分かる。材質はニッケルクロム鋼。










(↑;シャルレ・スーパーコンタNo.2、↓;トップ・スノーマン)


ダイナミック・スノーマン(DINAMIC SNOWMAN) [鹿児島県屋久町、榊原浩平氏所蔵]
 スノーマンがシャルレのスーパーコンタを手本としたピッケルであるのに対してダイナミック・スノーマンはシモンのスーパーDを手本として作られている。ダイナミック・スノーマンにも前期と後期のモデルがあり、これは前期の物でシモン・スーパーD初期型が手本となっている。
 1960(昭和35)年に発行された碓井徳蔵著「登山用具入門」(参考文献1-2)の巻末にある登山用具一覧表には既にこのピッケルが掲載されている(当時の価格で4,000円)ので1950年代後半から作られていたものと思われる。
 ヘッド長28.0p、全長85p、重量810gである。銘は表に波線を挟んでDINAMIC SNOWMANと打たれ、裏には斜めにS.Steelと打たれている。S.Steelは材料の砂鉄鋼(Sand Steel、砂鉄を材料とした日本古来の鉄)を表しているのであろうか。またなぜかメーカ名がどこにも打たれていない。










シルバー・ザッテル(SILVER SATTEL) [千葉県八日市場市、中台格之氏所蔵]
 これはピック両面の削り取り形状から推察してエバニューのモデルRCCを意識して作られた物であろう。しかしRCC以上に手の込んだピッケルである。ピック両面の削り取り以外にもヘッド下部のシャフトと合する個所も贅肉を削り取って少しでも軽量化しようとしている。フィンガはピック側とブレード側とで長さが違う。ピック側は150oあるのに対してブレード側は107oである。そしてフィンガ上部は2本のピンで前後が連結されているがピック側下部の長い分は木ネジでシャフトに留められている。石突きのハーネスは逆にブレード側が長く、ここもネジが打たれている。
 モデル名についてであるが、シルバー(Silver)は英語で銀色のことを、またザッテル(Sattel)はドイツ語で鞍部のことを意味する。合わせて「銀色のコル(鞍部)」というロマンチックなネーミングであるがシルバー・ザッテルでは英語とドイツ語を組み合わせた造語となってしまう。そのためであろうかピック表側にはドイツ語でジルベルン・ザッテル(Silbern Sattel)と正確な名称を打ってある。ピック背面には愛らしい雷鳥とその下にTOKYO TOP、さらにその下にはSILVER SATTELと打たれている。ブレード上面にも銘が刻印されている。
 下のピッケルはヘッド長27.0p、全長75.5p、重量750g、1960年代から1970年代に製造された物であろう。


















シルバー・ザッテル−2(SILVER SATTEL-2) [静岡県沼津市、村山忠彦氏所蔵]
 これもシルバー・ザッテルであるが上掲の物とは異なる。ヘッド長は27.0pと同じであるが大きな違いはブレード先端の波形の刻みである。上掲の物は刻みが上面まで貫通していないが下の物ははっきり波形に刻まれている。
 刻印はピック表面もSILVER SATTELと打たれている。小さく打たれているN.C.Sはニッケル・クロム鋼のことであろう。ピック背面には上掲の物と同じ雷鳥の刻印が打たれているがその下にPERFECT WELDING MADEと打たれている。WELDINGは溶接のことであるのでこのモデルが溶接を用いた製法のモデルであることを表している。
 溶接ピッケルとはピックとフィンガを別々に作って溶接した物である。この工法はフィンガの打ち出しという鍛造工程上やっかいな作業が省略できるがその反面溶接の不備によるピックの分離という危険が伴う。それを敢えて標記しているということはメーカとしては溶接について充分な自信があったのであろう。
 下の物は1970年代に製造された物と思われ、上掲の物よりもこちらの方が新しいと考えられる。