プリムス(Primus,Sweden,1892-)


No.8R
No.71L
No.96(L)
No.100/4128
No.210(L)
No.221(L)
MFS3288

 灯油などの液体燃料に圧力を加えて小さな出口から吹き出させると霧状になる。それを燃やすと完全燃焼に近くなって燃焼効率が良くなり、煤(すす)の発生も押さえられる。スウェーデン人Frans Wilhelm Lindqvistは、この原理を応用した「煤なし灯油ストーブ」の特許を1892年に登録した。さっそく彼はそれを友人や隣人に売ったが大変好評だったのですぐに本格的な会社組織となった。Primusの名が誕生したのはこの時である。
 1892年は日本では明治25年であり、その2年前の1890年に東京〜横浜間で電話が開通し、3年前の1889年に東海道本線が全線開通(もちろんまだ蒸気機関車)している。世界的な発明としては、エジソンによる白熱電球が1879年、自動車がドイツのダイムラーによって作られたのが1883年、イタリアのマルコーニが無線電信を発明したのが1895年である。
 Primusのストーブはこのような時代に生まれた。そして誕生以来Primusストーブは短期間の内に世界中に広まった。例えばノルウェーのアムンセンは1911年の南極点到達遠征にPrimusストーブを携行しているしニュージーランドのヒラリー達のエベレスト遠征時にも活躍した。

 Primusはブランド名であり、製造・販売会社はスウェーデンの首都ストックホルムにあった株式会社B.A.ヨート(A/B B.A. HJORTH & Co.)が行っていた。ヨート社はB.A. Hjorthという人がオーナーであったと考えられる。長い歴史の後、ヨート社は1955年に社名を株式会社BAHCO(A B BAHCO)に変更した。BAHCOはそれまでの社名、B.A. Hjorth COの頭文字を連ねた造語である。このことからヨート社とバーコ社は同一の会社であると考えて良さそうである。またヨート社及びバーコ社の頭に付いているA/B及びA Bはスウェーデン語のAktie Bolaget(株式会社)の略だと思われる。
 社名変更後間もない1962年、バーコ社は灯油・ガソリン部門を同じスウェーデンのOptimus社に譲った。ただし販売会社であるプリムス・トレーディング株式会社(Primus Trading AB)はそのまま存在(またはその時できたか?)したのでPrimusブランドの灯油・ガソリンストーブは1980年頃まで市場に出ていたようだ。この時期はOptimus/Primus兼用のバーナーヘッドを使ったり、8Rのようにほとんど同じ製品に異なるブランド名ステッカーを張ってOptimusのルートとPrimusのルートで販売していたようだ。
 さらにバーコ社は1966年、LPガス部門をMax Sievert社に譲った。Max Sievert社はSveaをブランドとする同じスウェーデンのストーブメーカーであり、バーコ社とは長い間ライバル同士であった。Max Sievert社もこの年、灯油・ガソリン部門をOptimus社に譲り、以後はLPガス製品を主力にすべくPrimus吸収後社名をAB Primus-Sievertと変更した。そしてPrimusブランドでLPガス製品を販売した。
 現在の社名はPrimus ABであり、キャンプ用ストーブをはじめ、それ以外の製品も生産している。日本では1985年に岩谷産業鰍ニ合弁で販売会社イワタニ・プリムス鰍設立し、現在に至っている。
 PrimusはLPガスに転向して以来、灯油及びガソリンを燃料とする製品の生産していなかったが1997年、再び灯油・ガソリン・LPガス等複数種類の燃料が使えるストーブを発売して今日に至っている。

 Primusはラテン語であり「最上の」という意味の単語である。そしてプリムス[primus]という発音は多分ラテン語読み(またはドイツ語読みプリームス[prí®mus])だと思われる。英語の辞書にはPrimus (stove)で「携帯用石油ストーブ」と記載されており、どうやら英語圏ではPrimusがこの種のストーブの代名詞となっているようだ。しかし元来の英語にはPrimusという単語はなく「最上の」に相当する単語はプライム(prime)である。したがってPrimusの英語読みはプライマス[práim§s]となる。日本にはヨーロッパ経由で伝わったらしくプリムスという呼び方が一般的である。

 Primusの製品にはNo.1やNo.2といった型番が付いている。そして後発の競合他社(Svea、Optimus、Radius等)もこれにならって型番を付けていったと思われる。このため各型番にはその型番の製品を最初に出したオリジナル・メーカが存在する(例えばNo.1はPrimus、8RはOptimus、21はRadius、123はSvea等)。また同じ型番の製品を他社がコピーして作ったりもした。
 Primusの型番にはLの付いたものと付かないものがあるが、Lの付いた型番は収納缶付きを表している(例;71L、96L)。同じ型番でもLの付く製品と付かない製品を品揃えしていたようなのでここではLが存在する製品は型番の後に(L)を付けておく。

 Primusストーブのタンク裏側には製造年のコードが刻印されている物がある。これは1909年から始まりA,B,Cと打たれ、1934年がZであった。翌1935年からはAA,AB,と打たれ1960年がAZである。1955年(AU)から1963年まではコードではなくて55,56,・・・63という具合に年号がそのまま打たれた物もある。

 灯油やガソリンのストーブは炎の吹き出し方によってローラー(Roarer,咆哮)型とサイレント(Silent,無音)型に分けることができる。基本的には型番によってどちらかが決まるが物によっては(例えばNo.100)ユーザーがどちらにもできる製品もあった。またPrimusではストーブの大きさによって工業用、家庭用、キャンピング用というようにカタログ上で区分けしていた。ここでも同じように種類分けをしている。



初期の頃のプリムスの工場。[出典;Primus cooking apparatus etc. Catalogue No.836 1922年版]



中型以上のタンクには下のような多国籍文字が刻印されている。この表示は、B.A. Hjorth社が純正Primus器具の唯一のメーカであることを宣言している。日本語部分の「瑞典國」はスウェーデンのことであり「正眞」はgenuineの訳であろう。またPrimusの読みが英語読みのプライマスとなっている。[出典;同上]